私の名前は美星希望。『希望』と書いて『のぞみ』って読みます。年は、17歳の高校二年生。身長は…、160cm。になったら良いなぁ♪ってところ。
季節は夏。日は真上ぐらいで、『お昼時』って言葉がぴったりな時間帯。
「希望ちゃん…?今の話つまらなかったかな…?」
私の右隣から聞こえる優しい声。不安そうで、私の顔をのぞき込んでいる男の子がいた。
「ううん。おもしろいよ!優希君の弟さんの話」
この人は私の素敵な彼氏さん、『如月優希』君。付き合い始めてまだ一ヶ月だけど、幼稚園からの幼なじみだから、まったくの他人というわけでもない。だからと言って、お互いをよく知っているわけではなく…、ただ『そんな名前の人がいる』と、いう事だけ知っていた仲…。
「あ、えーと…。その話は、さっきしたんだけど…?」
「はぇ…?」
信じたくないゲンジツ…。苦笑する優希君を見て、口に入れようとしたウィンナーがポロッと落ちる…。
さっきから、どうでもいいことばかり考えて、全然聞いていなかった私…。最低だよ…。
「ご、ごめんね…。せっかくの私のために話してくれてたのに…」
「ううん、いいよ。つまらない話をした、僕がいけないんだから♪」
怒られて当然の事をしてるのに、優希君は、笑顔でこう言う。
「何か、悩み事でもあるの?毎度の事ながら、僕でよければ相談してね?」
優しいなぁ。たぶん、友達より頼りになって、親より私の事を理解してくれている。とはいっても、親はほとんど家にいなくて、いつもは、お兄ちゃんと二人暮らし。それでも悩み事のほとんどは優希君のおかげで解決できている。
そんな優しくて頼りになる所が、好きになった理由の一つ。ホントの事を言えば、一目惚れだったのだけれど…
「ううん。悩み事とか、そんなんじゃないから!えーと…、ただの考え事?」
「くすっ…。それは、僕に聞いてもダメじゃないかな?」
「あぅ…」
わ、笑われた…。でも、こんな日常的な会話も楽しくて幸せに感じる。
「でも、何でもないならいいや。今度はもっとおもしろい話をするね?」
優希君の言葉と同時に風がすっと、吹き抜ける。私や優希君の頬を優しく撫で、髪を櫛でとく様に。ふと思い出した。今は学校の昼休みで、優希君と屋上にお弁当を食べにきていた事を。
「ん?どうしたの?」
「えへへ、お願いできちゃった…。いつものお願いしても良いかな?」
「いいよ」
クスッと笑って、優希君が私の弁当箱から卵焼きを拾い上げ口の中に放り込む。
実は、私は卵が大キライ…。嫌いだったら、弁当箱に入れなければいいのだけど、料理も出来ないし、遅刻ギリギリの登校をしている私に弁当を作る時間も、買う時間もない。
だから、料理はいつもお兄ちゃん任せなのだけど…。お兄ちゃんは、私の卵嫌いを知っていて弁当箱に卵料理を入れている…。
「へへ、ありがと」
「どういたしまして♪美味しいのに、この卵焼き」
「それでも、なんか好きになれなくて…」
「まあ、人それぞれ好き嫌いがあるからね。こんな事でも、僕を頼りにしてくれて凄く嬉しいな」
『残したら明日は弁当ないと思え♪』が、お兄ちゃんの最近の嫌味。私と優希君のラブラブが気に入らないのか何なのか…
「こんなことばっかりでゴメンね…」
本当に申し訳ないと思う…。今日こそあの人の皮を被った悪魔(お兄ちゃん)に制裁を与えなければ!!と、心に誓う私。
――キーン コーン カーン コーン
いいかげん聞きあきた、電子音が校内に、そして付近の家々に響く。昼休み終了五分前のチャイム。優希君との少しの間の別れが近づく…。
「そろそろ、戻ろうか?教室」
「うん、そだね。戻ろっか?」
私と優希君は違うクラス。だから、本当はもう少し一緒に居たいけど…。私自身、午後の授業に遅刻するわけにもいけないし、優希君にさせるわけにもいかない。だから、今日のランチタイムはここでおしまい。
そして、場所は変わって教室。残りの休み時間は、友達と話すことにした私。
「んで、今日も素敵なカレと、楽しいお昼を、過ごしたわけだ?」
「そ、そんな、楽しいって…。せめて、『一緒にご飯食べた』だよ!」
こうやって、私をからかってくるのが、大親友の『福唯美月』。優希君と同じで、幼稚園からの幼なじみ。優希君と違うところは、お互いを幼稚園から知っていて、友達だったという事。
「ふ〜ん。『一緒にご飯を食べた』か〜」
「な、何…?その意味ありげな言い方…」
加えてもう一言。私と同じで、優希君の事が好き…。
「別に〜。優希も希望の事気にしてるみたいだから、付き合ってるのかな?って思っただけ」
「そそ、そんな!付き合ってるなんて!そんなこと…」
『そんな事ない!!』なんて、言い切れなかった…。大親友故に、嘘はつけないし、好きなことを知っているからこそ言えなかった…。
「それじゃあ、今度から私も、楽しいお昼を過ごそうかな?」
「はい…?それは…、どういう意味…?」
「人数は多い方が楽しい。って言うでしょ?だ・か・ら、今度から私も、楽しいお昼に加えてもらおうかな?ってね♪」
そ、そんなー!!最近、やっと優希君と二人きりでご飯食べられるようになったのに…。美月が笑顔で言う言葉は、私を深く悩ませた…。
そして、午後の授業にまったく気が入らなかった私…。先生に何回か呼ばれた気がしないでもないんだけど…。気が付けば放課後。教室には私しかいなかった…。
「あ、あれ…」
いつの間にか、放課ホームも終わってしまい、日も暮れ始めている…。
机の上に頭を置き、窓の外のオレンジ色の景色をぼんやり眺めた。
「あれ?希望ちゃん?」
オレンジ色の景色を眺め始めて数秒で、優しい声が誰もいない教室に響く。絶対に忘れてはいけない声。私はパッと頭を上げ、教室の入り口を見た。
「優希君…?なんで…」
「やっぱり、希望ちゃんだ。今から帰るけど一緒にどう?」
驚く私に対して、優希君は、クスクスと笑って答える。まるで私がいることを最初から知っていたかの様に…
「あ、うん」
この曖味な答えしか出なかった…。そして、私たちは早くも見飽きた学校と、暖かく微笑みかける夕日を背に、それぞれの家へと向かう。
「優希君はなんで、学校にいたの?」
「生徒会の話し合いだよ。そういう希望ちゃんは?」
「わ、私!?私は…、えーと…、その…」
(『ボーっとしてて気付いたら一人でした』なんて言えないし…)
「ゆ、優希君を…、待ってた…」
バカだ。見事に墓穴を掘ってしまった…。
「僕が、生徒会の話し合いに出てるの知らなかったのに?」
普段はポーッとしてるのに、こういう時は鋭い…。って、こんなウソじゃダメか…
「えへへ…。ホントは、ボーッとしてて、気付いたら一人で…」
「くす、希望ちゃんらしいね」
意地悪な笑い方をする優希君…。
「どーゆー意味!?」
「考え事を始めると、時間を忘れられるほど、集中できる子。って意味かな」
くすくす。と、笑いながら言われると、いくら優希君でも腹が立つ…
「それは、誉めてるの…?」
「どっちかな?」
「もう!いじわる!」
頬をプクッと膨らませて優希君から顔をそらす。
「寂しかった?」
突然の言葉に素直に答えてしまう。
「ものすごく!気が付いたら一人で、教室には誰もいなくて…」
「そんな時は、僕を呼んで?できる限りすぐ駆けつけてあげるから」
優しい優希君の声、同時に細いのに力強い腕が私を包み込む…
「うわっ!?ちょっ、優希君!?」
「もう寂しくないよね?」
大きく、がっちりした優希君の胸に、抱かれた私。だんだん視界が白く薄く…フィールドバックしていく…。
「うん…」
「う…、ん…」
気が付けば、自分のベッドの上に…。服装も、何故か私のお気に入りの水色の生地に白の水玉のパジャマ…。珍しく、目覚まし時計のなる前に目が覚めた。
「あれ…?」
いくら思い出そうそしても、最後の『うん…』を境に全てが真っ白…
まるで、その後何もなかったかの様に…
「ユメ…、だったのかな…?」
ベッドから起き上がり、壁にかかった学校指定の制服に、サッと着替える。まだ登校までに時間があるから、いつもより綿密に身だしなみを整える。
とはいっても、普段は身だしなみを整える時間なんてなくて、軽く寝癖を直すくらい…。ひどい時は、パンを咥えて家を飛び出しちゃうし…
「今日はゆっくり食べれるかな」
なんて、早くも朝食の事を気にしてたりして♪
「何やってるんだ、お前?」
朝食を食べにリビングに来た私。読んでいた新聞から顔をずらし、お兄ちゃんはあきれた顔で私を見て言う。
「な、何って…。学校に行く準備を…」
「寝ぼけてるのか?カレンダーを見てみろ、今日は何月何日だ?」
「へ…?」
お兄ちゃんが、さっきまで読んでいた新聞を丸めて、後ろの壁にかかったカレンダーを指す。その先には、赤ペンで描いたハートマークと、【優希君とデート】の文字…
「あ…」
「昨日は昨日で浮かれてたくせに、半日寝ないうちに、記憶の隅か?」
『そんな事ない!』そう言いたかった…。けど、おかしい…。私の記憶が正しければ、昨日は夏休みに入る、一週間も前…。でも、今日は、夏休みに入って、二週間も過ぎている…。
「あは…、あはは…。えっと、これはちょっとしたジョーク…?」
「まさかもう夏休みボケか?て言うか、さっさと着替えこい!」
『人を待たせるな!』と、怒鳴られた私は、逃げるようにリビングを出て部屋に戻る。
「あんなにきつく言わなくてもいいのに…。」
ブツブツと、お兄ちゃんに文句を言いながら、お気に入りのワンピースに着替え、優希君に買ってもらったアクセサリを身につけ着飾ってみる…。けど…
「私…、意外にこういうの似合わないんだ…」
鏡に映った自分を見てふと思う…。普段は、結構自分に自信を持っている。最低限、優希君とつりあう位の女の子だ。と…。
勿論、他の人達に言わせてみればただ単に自意識過剰なだけなのだけれど…。
「可愛くないかな…、私…」
鏡の中の私が、自分の頬を『ムニッ』と摘む。意外に柔らかな、彼女の頬は、面白いくらいに形を変えてゆく。
鏡の中の私が自分の頬で遊んでいると、机の上の携帯電話が、ピリリッと電子音を流す。
「あれ…。優希君…、かな?」
私が机の上の携帯電話を取りに行くと、鏡の中の私がすうっと消えた。
携帯電話のディスプレイで相手を確認した時、私はイヤな予感がした。それと同時に、心臓の鼓動が早くなるのが分かった…
「も…、もしもし?」
『あ、希望?』
美月の声に、いつもの元気はなく。声を聴いた瞬間、私は体中の血の気が、サーッと引いた気がした…。
「あ、うん。どうしたの…?」
『あの…さ、いきなりだけど、ずっと昔に約束したの覚えてる?』
「約束…?」
美月とは何度も約束事をしてきたけど、どれくらい昔の事を言っているのか分からなかった…
『覚えてないかな…?初めて会ったあの日。私と希望が友達になった日の事。』
「覚えてるよ!滑り台で交わした三つの約束。」
忘れるはずがない。幼稚園時代、いつも部屋の隅で蹲っていた私に初めて先生以外の人が声を掛けてくれた。その子が美月だった。その日に、美月と滑り台の上で三つの約束を交わした事も。
『よかった…。ううん、あんまりよくない。それじゃあ、覚えてて約束やぶった事になるんだ…?』
「あ…。優希君…、の事だよね?」
【何があってもずっと友達】【隠し事はしない】【困ったときはすぐ相談】が、三つの約束。
私は、この内既に二つを破ってしまっている…
『まあ、そうなるかな…。実を言うと、希望と優希が付き合ってるの知ってたんだ』
「え!?」
薄々気付かれているとは思っていたけれど、改めて言われると、動揺など隠す事が出来るわけもなかった。
『まさか、優希の口から聞くとは思わなかった…。希望に告白したなんてさ…』
小さくなる美月の言葉に、悔しさ…と言うよりも、悲しさをそのまま音にした様な声を感じた。返す言葉も見つからず、それを察してか美月は話を続ける。
『何でまた、私に話したかな?こんな事…聞きたくなかったのに…。結局、私は優希にとって、仲の良い幼なじみ止まりだったって事ね』
『違う。そんな事ないよ。優希君は美月の事好きなんだよ!』この一言を伝えようとした時、ふと目に映った鏡の中の私。不気味に笑う彼女は、まるで私の心のイヤな部分だけを映し出したかの様に語りかけてくる。
(じゃあ、どうして私を選んだのかな?顔とか、声とか、性格が好みだったとか?くすっ、可愛いからに決まってるよね?)
(違う!私なんかよりかわいい子は、沢山いるもん!美月の方がずっと綺麗で、頭もよくて運動もできて…)
(何言ってるの?私は、可愛いんだよ?勉強も、運動もちょっとダメな位の方が好きなのかもしれないよ?)
(違う…!違う、違う違う!!)
『希望?』
「えあ…。あ…、えと…」
美月の一言で、まるでゲンジツに引き戻された様な感覚になる…。
『相変わらず、ポケーッとしてるのね?ま、その調子なら、優希も飽きがこなくて楽しいかもね。』
「ごめん…」
『べつに謝らなくていいって。何か、このタイミングで言うのも変なんだけど、私引っ越す事になったから』
「な、何で!?そんな…、いきなり…」
『約束、希望もやぶったよね?』
「だからって!」
かと言って、こんな事をいきなり言われて、どうしたら良いか分かるわけもない。
『後もう一つ。これからは連絡とかしないから』
「それって…」
『希望と友達でいるのも、もうおしまいって事。じゃあね』
「待って!みつ…」
耳には、美月の声ではなく、冷たい電子音だけが届いた。そしてまた、目前のフィールドバック…。床に引き寄せられるような感覚。目を閉じ、何も考えない事にした。
(もう、どうでもいいや…)
「…ちゃん。…みちゃん大丈夫?」
(誰…?ほっといてよ、私なんか、どうなってもいいんだから…)
「希望ちゃん…」
なんだか懐かしい声…。空気は暖かく、なんだか緑の香りがした気がした…
(私、家にいたはずなのに…)
「ん…」
そっと目を開けてみる。
「あ…、れ?私…」
「よかった、気が付いた…」
まず目に入ったのは、木漏れ日。そして、次に優希君の顔だった…。
「優希君…?ここは…?」
「まだ、星観公園だよ。」
「まだ…?」
「ごめんね、あまり時間がないみたいだから、率直に話すよ」
「待って!ここは、いつもの公園なんだよね?」
星観公園。いつも私と優希君が待ち合わせをしている場所。辺りをぐるりと見回してみても、間違いない…、と思う。
子供の時によく遊んだブランコ。その横にジャングルジム、反対側に鉄棒と滑り台。そして、私達のいる真ん中は少し盛り上がっていて大きな桜の木が一本。
「そう。ここは、星観公園。でも僕の記憶と、希望ちゃんのユメでできた世界のね」
「私の…、ユメ?」
この一言を最後に、星観公園は存在する事をやめた…
周りの世界が、まるで硝子が砕けるかの様に亀裂が走り、空が割れ、地面も粉々になり、なのに無音で…。目の前の優希君ですら、姿が透き通り、消えた…。
「なに…、これ…?」
風景なんてものはそこには無く。ただ、どこまでも真っ暗な世界。
存在するのは、私だけ…。それだけが理解できた。
「優希君…?」
言葉むなしく無音になった…。思考錯誤を重ねてみても、『答え』と呼べるものは無く、自分の存在すら否定してしまいたくなる…
孤独感だけではなく、威圧感に寂しさが加わり、絶望なんて言葉ですらこの状況を表現しきれない…
「私、死んじゃったんだ。きっと…」
『違うよ。』
やっと帰ってくる返事。ほんの数秒の事なのに、久しぶりに聞くような大好きな人の声。
姿は見えない。でも分かる。優希君はそこにいる。
「優希君!どこにいるの!?私…、私どうなったの!?」
『落ち着いて。簡単に説明すると、朝が近くなって希望ちゃんの意識が戻り始めたって言うのが、実際のところ。』
「朝?意識?な、何言ってるの…?」
『説明が難しいな…。さっきも話したとおり、ここは僕の記憶と、希望ちゃんのユメでできた世界。どちらかと言えば、希望ちゃんのユメ』
「ユメ…?」
『そう、ユメ。さっきまでは、僕や周りをちゃんと意識していた。だから、そこは存在していた。でも、朝になって、希望ちゃんがユメから目覚めようといている。つまり、意識がこの世界から途絶え始めて、君以外のものが形を維持出来なくなったんだ』
全くもって意外な答え…。でも、もしこれがユメだとすれば、今まで体験してきた、不思議な体験も説明できる。
ある事を除けば…
「じゃあ…優希君は?ここが私のユメだとすれば、優希君とのこの会話は成立しないよ?」
『そうだね。僕は、希望ちゃんのユメで存在しているわけじゃないからね。』
「そんな、落ち着いた口調で言わないでよ…」
『もう一言加えれば、今の僕は意識だけの存在だし、希望ちゃんの世界には存在しない』
問題がひとつ解ければ、また問題。頭が痛くなってきた気がした…
『説明する時間はありそうだね…。ひとつずつ解決していこうね。』
こんな時でも、優希君は落ち着いていて優しい。でも、私の知っている優希君とは違う。そう思えば、とても悲しくなった…。
「そっか…。じゃあ、今私と話をしているのは、いくつもある未来の中の、ひとつの未来に存在する優希君。それで、今まで見てきたのは私のユメと優希君の記憶で、これから起こりうる未来の一つでもある…って事?」
『そうだね。でも、僕が希望ちゃんに聞いた話だから、この通りは起こらないと思う。それに、希望ちゃん次第でいくらでも未来を変えることができるからね』
背中合わせに話し合っている感じ。間近で聞くことの出来る優希君の声、それと背中に感じる温もりが、そう思わ
せてくれる。
「ありがとう」
『えっ?』
「こんな私の為に、貴重な未来を教えてくれて」
『そ、そんな…。僕は希望ちゃんに幸せになってほしいだけだから』
「だから、ありがとう。未来の私には悪い気がするけど…、絶対幸せになる!」
『よかった。』
少しずつ優希君の声が遠くなっていく気がした。
『もう、お別れしなきゃいけないみたいだ』
「うん。」
『でも、さよならは言わない。お互いの世界で、お互いに会えるから』
「そうだね。じゃあ、お別れの挨拶は、サヨナラじゃなくて『また後で♪』だね」
『うん。また後で♪』
優希君の明るく元気な声。最後にもう一言伝えようとした時…
――ジリリリリリリリ…
私の使っている目覚まし時計の音。真っ暗な世界に光が差し、私は目を覚ます
「う…、ふあ〜…」
大きなあくびを一つ、そして時計を見る…。これこそユメであってほしいと願う…
「は、八時…、二十分…」
急げば間に合うかもしれない!などと思いながら、急いで制服に着替え、リビング向かう。
「やっと起きたか?お寝坊さん」
「お兄ちゃんが、コーヒーを飲み一言。嫌みを言う所は、ユメと同じ…。
「どうして起こしてくれなったの?」
「何をおっしゃる。何度も起こしに向かいましたが?いや、ほんと残念。部屋に入れてもらえれば、起こせたんですがね」
今度は思い出せる。自らの口で、昨晩『部屋に入らないで!』と言った事を…
「う…、もう、行ってきます!」
テーブルの上にあった、コーヒーをくっと飲み干し、家を飛び出す。
結局、今日も朝ご飯をまともに食べれなかったわけです…
「希望ちゃん」
ユメの始まりの時と同じ風が吹く。とても、爽やかで、優しい風。
「優希…君…」
これもまたユメではないかと思う。でもそこには優希君がいた。この私の世界にいる優希君が。
「おはよう。さ、行くよ。まだ間に合うかもしれないよ。」
「うん!」
などと話していると、学校の予鈴が耳に…
遅刻は決定…。お互い苦笑しあいながらも、走って学校に向かう。
でも、気分はとてもいい。なんだか新しい自分になれたみたいで。
そして、この体験と共に絶対忘れない。ユメで出会った優希君の言葉を
“ユメは僕達が主人公のもう一つのゲンジツ。他のゲンジツの自分が見せたいと思った世界を見せてくれる場所。どう解釈するかは希望ちゃん次第だけど、見て損をする事はない。だって、希望ちゃんが違うゲンジツで体験した大切な思い出の一つでもあるのだから”
未来の優希君と約束したように、絶対幸せになってみせる!!
AWAKE FROM A DREAM and…
――――――HAPPY END
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